Ni_bansenji

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語るタイプのオタクがおくるちゃんぽん感想文

私の考える最強のスピッツ

 先日、スピッツの最新アルバムである『見っけ』が発売された。それと同時期にスピッツサブスクリプションが解禁された。後者は私にとって画期的な出来事で胸が震えた。

 これでファン層が広がる。同年代にもう懐メロとは言わせない。今夏に受けた「スピッツなんて」なんて言葉は執念深いから一生忘れてやらない。ウォークマン信者の私が胸を熱くした理由がこれだ。

 

 さて、「スピッツが好き」というと、「どのアルバムがおすすめ?」と聞いてくれる優しいお方も度々いるのだが、私はその質問にきちんと答えられたことがない。

 だって私の好きな曲はアルバムに散り散りで、1つになんか絞れないんですよ!!!!

 だから、サブスクが解禁され、ファン層が広まりそうな今、私の好きな曲をプレゼンしようと考え、書き始めたのが本稿なのです。

 そのため、本稿ではアルバムを横断しながら私の好きなスピッツの楽曲を勝手におすすめしたいと思います。

 

1.さらさら

2.プール

3.船乗り

4.フェイクファー

5.春の歌

6.ワタリ

7.死神の岬へ

8.恋は夕暮れ

9.若葉

10.HOLIDAY

11.惑星のかけら

12.花と虫

13.YM71D

14.見っけ

 

1.さらさら

 自己肯定感が欠けらも無い僕が君を想うことで日々を繋ぐ曲だと解しているんですが、それだけには終わらない。

 最も好きな歌詞は「歪んでいることに甘えながら」というフレーズ。自己が嫌いということは結局は甘えでしかないとバッサリ切ってくれる。だからこの曲は、まず自分のことを嫌いな誰かを共感させ、それを前述したフレーズで刺し、「100度目の答えなら正解」と悩んで得た答えを肯定してくれる。閉鎖的に見えて、ラストに向かうごとに開放や前進の色を強めてくれる、夜明けを思わせる曲です。

 ラブソングだと捉えていないので触れなかったんですが「眠りにつくまでそばにいて欲しいだけさ 見てない時は自由でいい」とのフレーズも秀逸。

 

2.プール

 本曲が収録されている『名前をつけてやる』は間違いなく名盤。「あわ」か「恋のうた」も選出するか非常に迷いました。

 夏って爽やかで眩しい季節だけれども、省みてみるとどの季節よりも胸を締付ける切なさを持っている。この曲はどの歌詞が、とかではなくて曲を構成する全てがその狂おしいほど愛おしい夏を表している。草野マサムネの気が抜けた歌声が最も似合うのではないだろうか。バンドサウンドとしても均整がとれていて全てのパートがクリアに聞こえるところも好きです。

 

3.船乗り

 4本の手を持つ我らが守護神(?)崎山龍男節が存分に生きる1曲。

 ドラムもかっこいいんですが、メロディーラインが素晴らしい。サビの前まではスタッカートを多用することで、貯めて貯めて、サビで一気に伸びやかに解放していくメロディーが爽快感を与える。

 歌詞は、旅立つものの高揚を乗せる。が!「すぐに終わりがあってもね」なんて、喪失を前提にした弱々しい一面も見せてくれるから...まったく...もう...好き...。

 とはいっても壮観すれば、大いに強気な歌詞。聴くものに勇気を分けてくれるはず。(私は大事なイベントの前に必ず聴きます)

 

4.フェイクファー

 淡くて柔い恋心を歌った曲です。マサムネさんは恋の狂気をテーマにした曲をよく書いていると思うのですが、この曲は、それでもなく、失恋でもなく、もっと触れられないような脆い心を歌っているようで好きです。だって、曲調も歌詞も、明確なものは何もないのに、叶っていない気がするんですよ。

フレーズとしては「分かち合うものは何も無いけど 恋の喜びに溢れてる」という歌詞がすごく好きで、相手を思う気持ちって実は自己利益のためで醜いなぁ、なんてこの歌詞を読んで考えたこともあります。

 実を言うと『フェイクファー』が最も好きなアルバムです。

 

5.春の歌

 言わずと知れた名曲。CMソングにカバーにと大活躍なこの曲は著名人にも愛されていて、漫画家の羽海野チカ氏がこの曲を聴きながら「三月のライオン」のプロットを作ったなんてエピソードまであります。

 マサムネさんの歌声が力強く、挫けそうな時に背中を押してくれる曲です。

 中でも好きなフレーズが二つあります。1つは「愛も希望も作り始める」というフレーズ。愛も希望も自らが"作る"。与えられるものでもなく、探しに行くものでもなく作り出さなければならない。手厳しい現実を突きつけられますが、同時に勇気の湧くフレーズ。2つ目は「忘れかけた 本当は忘れたくない 君の名をなぞる」というフレーズ。君の名をなぞるの片思い感が愛おしい。

 

6.ワタリ

 あぁお前、『スーベニア』ダブってるじゃんか。それでもこれは入れたかった。

 先日、「関ジャム」のスピッツ特集に出演していた川谷絵音氏の好きな楽曲。

 8ビートから始まるいかにもロックな1曲。「scat」が好きな100人に96人はこの曲も好きと答えるでしょう(?)。サウンドに合わせて歌詞も尖っている。「額に納まった世界が軋む」なんてロックですよね。

 歌詞はサビの前までは痛々しいほどに自分を責めて自分を傷つけているのに、サビではそれでも進めと促す。「ヒビスクス」も似たような歌詞の構成になっていると思うんですが、いかがでしょう。「私以外私じゃない」から誰かを傷つけても己が傷ついても先が見えなくても、お前が飛ばなければならない、なんて読み方をしているけれどいざしれず。

 

7.死神の岬へ

 ビートの取り方は「優しいあの子」 と変わらないのに歌う内容は正反対。だって入りの歌詞が「愛と希望に満たされて 誰も彼もすごく疲れた」ですよ。すっごいパンチが効いている。

 さらには「死神が遊ぶ岬」「2人で壊したら」「青白い素顔」なんてフレーズが散りばめられる。あれ、これってどう考えても心中の曲。

 ただ、私はこの曲が内蔵する死について語るつもりはなくて、この曲の景観について語りたい。例えば「痩せこけた鳥たち」だとか「風に揺れる稲穂」だとか「ガードレールの傷」だとか、寂れた岬が的確に描き出されている。

 渚だとか海岸通りだとかってよく曲にされるけど、岬の寂れ具合って曲にされないじゃないですか。剥げかけた緑のフェンスと立ち入り禁止の看板と伸び放題の背の高い草に、野良猫の集会。そんな地元の風景を思い起こしてくれるからこの曲が好きです。

 

 

8.恋は夕暮れ

 題からもう最高ですね。これは歌詞カードを音読したい。詩人草野マサムネの最高傑作だと勝手に思ってます。

 ホーンが入るからスピッツらしくないと敬遠する方もいるかもしれないけれど、必要なところにしか入っていないから決して曲の邪魔をしない。むしろか細い歌声やささやかな楽器隊を引き立てるよう。というかこの曲ってホーンが入らないと切な死をする人が多出するのでは。

「恋は待ちきれず先急ぐ桜」「恋はささやかな悪魔への祈り」吐血物ですよね。無粋なので解説はしません。

 最新アルバム『見っけ』には、「ヤマブキ」という透き通るロックチューンがあるのですが、その2番で「恋はヤマブキ」という歌詞があります。1番で歌うヤマブキはどうやら高嶺の花のことらしいのですが、2番はヤマブキ色の事かと考えています。だってそうとるなら、マサムネさんにとって未だに「恋は夕暮れ」なのだと取れるじゃないですか。だったら素敵だなぁなんて考えながら新譜を聴いています。

 

9.若葉

 スピッツのバラードの中ではダントツ(嘘です、コスモスとめちゃくちゃ悩みました)。切ないメロディーと感傷を重ねられてしまって涙しない人間がいるだろうか。フレーズの終止がほとんど過去形なのが、全てが今更どうにもならないことを感じさせて胸が痛い。

 「泣きたいほど懐かしいけど ひとまず鍵をかけて」「今 君の知らない道を歩き始める」のフレーズが前を向くためには、愛しい思い出を断ち切らないといけないということを明示しているのも辛い。

 これ1曲だけ聴いていると立派に鬱になれるので、アルバムの後の曲「どんどどん」も合わせて聴こう。カタルシスを感じてくれ。

 

10.HOLIDAY

 こうやってさ、HOLIDAYを勧めるとみんな鼻で笑って言うんだろ?知ってるよ!ストーカーで悪かったな!!!

  そう。おっしゃる通り、軽快なギターに恋煩いを乗せるストーカーソングですよ。「朝焼けの風に吹かれてあてもないのに 君を探そう このまま夕暮れまで」で、朝から晩まであみだくじを辿るように、虱潰しに君を探す僕が気持ち悪いんでしょう。

 しかし!会える訳もない休日に、対向する人波から君の影を探した経験がない人だけが、石を投げなさい!

 そもそも人の好意って相手の心の持ちようじゃないですか。好意のある人からの好意は胸が踊り、興味ない人からの好意には虫唾が走る。もうね、こんなのいちいち気にしてると頭がおかしくなりそう。人間関係が怖いんだよ!!!

  失礼しました。お綺麗な人間じゃないからこう言う人間くささがむちゃくちゃに愛おしいのです。

 

11.惑星のかけら

 初期のパンクな楽曲。イントロのギターが泥臭くていいです、若々しさを感じる。

 歌詞としては「僕に傷ついて」とのフレーズが大好き。どうでもいい人にされて嬉しいことはあっても、どうでもいい人にされて深く傷つくことってないですもんね。遠回しな手に負えない恋煩いの曲。

 

12.花と虫

 旧譜でなんて終わりません、新譜は常に最高傑作ですから。

 最新作『見っけ』において、もっとも世間のイメージするスピッツに近いとメンバーは評する。野原を散歩するような和やかで爽やかなメロディーに、穏やかなバンドサウンド。何を隠そう、本曲は「なつぞら」のOP候補だったそう(詳しくはお願いだからMUSICAを買って読んで下さい。大好きなので。)

 それなのにそのメロディーに乗せるのは、未来に対する不安、過去に差す影、現在を潰す劣等感。それだけに終らず、望郷やノスタルジーまでを重ねる。せつない成分をぎゅっと丸搾ったファン層をわかっている1曲。

 

12.YM71D

  最近のスピッツとしては異色。ディスコミュージックのようなビートが聴く者を惹き付けるこの曲。山下達郎氏の「Sparkle」のような曲をという制作意思があるそう。最近ではサカナクションがこういった80年代を思わせる楽曲を作っているイメージです(双方に殴られろ)。

 私はこの曲に淫靡な印象は抱けず、「初めては怖いけど」からあぁこれも未知の領域に手を伸ばし続ける曲なのだなぁと思ったのですが、皆様はいかがでしょうか。

 入りの「誰かと一緒にいたいけど 誰でもいいわけじゃなく」というフレーズは可愛くて可愛くて抱き潰してしまいそう。うーん、メロディーは確かにえっちだけど、やっぱりそうは私は取れんなぁ。

 

13.見っけ

 最後を締めるのは最新作のタイトルを冠する、アルバムオープニングチューン。NTT東日本のCMソングにもなっています。カノン調に上がっていくハイトーンのメロディーラインと、どこか懐かしさを感じるギター・ベース、それを引っ張るドラムが癖になるライブで聴きたい爽やかな一曲。

 「再会へ!」「近いぞ ゴールは」「すぐに場外へ」と前向きなフレーズが多く、私が勝手に思っている『見っけ』のアルバムコンセプト「大人になっても手を伸ばし続けよう」(誰だ勝手に決めたのは)を象徴する。

 そう!最新作には彼らの「開拓精神」が溢れている。彼らは現状に甘えない。だから、愛しい思い出を杖にしながら、未開拓の地に足を踏み入れ続ける。 そんな茨の道を歩む彼らが「見っけ」たのは…。こちらはアルバムを聴いて実際に感じて欲しいです。

 彼らは決して古くならない!そして全く別の新しいものに変わってしまったりもしない!この曲を聴けば、新しさとらしさを感じることが出来るのでは。

 

 以上、Mステ出演を待つ、一介のスピクラがお送りしました。拙い文章でもスピッツの良さが伝われば幸いです。

 

 5000文字越えの長文を読んでくださった方、ありがとうございました。

 それでは、また。

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