Road to Catharsis ~それでも彼らは進む~
Road to Cathars Tour 2018 6月19日
横浜アリーナ1日目公演7500字レポート
昨日、横浜アリーナにてRADWIMPSのツアー「Road to Catharsis Tour 2018」が行われた。
熱気と興奮そして愛に溢れた本公演はRADWIMPSの新章と呼んで遜色ない。彼らはまた前へと進んでいった。そのライブの模様を存分に語りたい。本稿はセトリ・演出のネタバレを含む。まだツアーに行っていない人はお引き取り願いたい。こんなものを読まない方がずっと楽しめる。また、ライブに熱中したあまりMCのタイミングが分からなくなってしまった。誤った場所に挟んでしまっている恐れが大いにある。ご容赦願いたい。
さて、筆者は年に10回以上ライブに行く。筆者をライブ狂にしたのはどう考えても10周年記念公演「RADWIMPSのはじまりはじまり」の影響だろう。あれは本当に素晴らしかった。筆者は未だにあれを超えるライブを見たことがない。しかし、今ツアーは非常に「RADWIMPSのはじまりはじまり」に近かった。「RADWIMPSのはじまりはじまり」に続くRADWIMPSの2つ目の切れ目。スタートとゴールになっただろう。
開演は7時。暗くなった会場が赤く染まる。花道が持ち上がりその下のガラス張りにサイレンが回転する。オーディエンスの絶叫とともに始まったのは「AADAAKOODAA」中心に野田洋次郎(Vo)、ステージから見て右に武田祐介(Ba)、その後ろに森瑞希(Dr)、ステージから見て左に桑原彰(Gt)、その後ろに刄田綴色(Dr)が位置する。洋次郎(愛をこめてこう呼ぶことを本項では許して欲しい)の衣装はコラージュしたようなものだ。背中には昨年のHuman Bloomを彷彿させる青地に赤い花が描かれている。桑原の衣装は銀色のギラギラしたパーカー・カーキーにストライプのスラックス。武田の衣装はストライプのロング丈オールインワン。毎度思うが、桑ちゃん(愛をこめてこう呼ぶことを本項では許して欲しい)の衣装は跳びやすいように、武田(愛をこめて...以下略)の衣装は回ると綺麗に見えるように作られている点が憎い。動きにあった衣装を着ている彼らは普段にもまして輝く。ツインドラムの森瑞希(Dr)は昨年通りボタンのシャツ、刄田綴色は青い半袖のポンチョを着ている。刄田の髪が金髪になっていることに驚いた。演奏中、野田はオーディエンスを盛大に煽る。「そんなもんか横浜!」との叫びにボルテージは最高潮に。
オーディエンスの熱狂が冷めぬまま始まったのは「One man live」青い会場に白い光線が飛んでいく。久しぶりに披露されるこの曲にオーディエンスは絶叫する。まさかこの曲をやってくれるとは。嘘です。セトリは見ないようにしていましたが、実は会場引き換えの際に筆者は聞こえてしまっていました。
続けて三曲目は「ます。」いつもより早い段階で演奏されるアンセムに会場が跳ねる。もちろん桑ちゃんも跳ねる。衣装をギラギラさせながら。そしてMCへ。「こんばんは。RADWIMPSです。」という挨拶から始まり、ホーム横浜へただいまと声をかける。会場からは温かなお帰りの声。前回のツアーから1年しか経っていないこと。アルバムツアーは2.3年空けてしまうため、今年の一月に今ツアーは急に決まったこと。そのため1ヶ月になった公演は平日が多くなってしまったこと。それでもこんなに多くの人が来てくれたことが嬉しいということ。「このツアーがすごく楽しくてあと30公演ぐらいやってたい。その分をここで出し切ってもいいかの?横浜!」との野田の煽りを熱気が飲み込んでいく。
アップテンポが来るかと思いきや続いての曲は「ふたりごと」ブレスが聞こえるほどの静寂と沸騰。そして定番の「遠恋」目玉の感想アドリブでは洋次郎が桑原の頭をシャンプーでもするようにワシワシする。頭をつかまれる桑原はそのまま跳ねる。期待していた武田の頭を上下に振る洋次郎は見ることがかなわなかったが、良しとしよう。定番化し始めたドラムのバトルは森のテクニカルかつスピーディーなドラムに、刄田は片方のスティックを口にくわえたまま片手でのパフォーマンスで応じる。続けて「俺色スカイ」ではバックスクリーンが青空に変わり、マイクを持った野田が中心から左方向へ、右方向へと徘徊し始める。夕方、夜空へと曲とともに移り変わるスクリーンと"Please Please"の大合唱、そして野田の声。ほっこりしつつ興奮するオーディエンスの目は、演奏後に花道に向かう野田へ。花道に運び込まれたのは大太鼓。そして演奏されたのは「やどかり」これまた久しぶりに演奏された曲に泣き出す人、雄叫びをあげる人。アコースティックギターに持ち替えた桑原はおどけて足踏みをする。森が首を振りながら叩くドラムがなんて生き生きしているか。そして野田が叩く太鼓の音を残して曲が終わる。続いて演奏されたのは「揶揄」バチを起き、ピアノの前に座る野田の手元から武田のベースからジャジーな音がこぼれる。バックスクリーンには楕円のテレビが砂嵐を映す。"198603345年×お前(アホ)= そう、eternally
日本語に訳すと要するに人間になるのは 無理"
はバックスクリーンに文字が流れ歌われなかった。ここで二回目のMC、ドラムス紹介。マイクをとったのは桑原。「それではここでドラムスを紹介したいと思います。ベース武田側、森瑞希ー!」「ギター桑原側、刄田綴色ー!」刄田綴色の金髪に触れ、「刄田さんは今日髪を切ってきました!」との紹介にかわいいー!と声が上がる。刄田は顔を引き締めながら、サイドの刈り上げを見せる。そして、話題はくわバーガーを肉々しいと評した森をいじる方向へ。桑原曰く、武田は世界で十番内に入る優しい人だそうだが、森瑞希に関しては厳しいらしい。油物が苦手な森に粉落としの豚骨を勧めたそう。若い頃と変わらない武田の食へのこだわり(筆者はその土地に行って名物食べるのって大事だと思う)にほっこりした。会場からは「パワハラです!」との声。それに対する武田の顔をクシャッとするおじいちゃんスマイル。ここで空調を気にして、武田と桑原の会話を聞いていなかった野田が乱入。空調やラーメンについて少し語って内輪ネタを終わらせる。初めて俺らのライブに来た人との問いにチラチラ上がる手を見て、「昔の曲ばっかでごめんね、これから知ってる曲出てくるからさ」と語る。
野田の言葉の余韻が残ったまま彼はピアノを弾き始める。演奏されたのは「秋祭り」最後の1音をアリーナに残したまま始まったのは「スパークル」暗いステージに5本のカクテルライトが灯る。本来なら三葉が死ぬシーンから、2度目の彗星が降るシーンまで飛ばすセットリストが恐ろしく美しい。暗く静かな会場にステージ側から星を模した光が漏れる。刄田の鈴もさる事ながら、微動だにしない桑原も見どころのひとつ。ここで3度MC。マイクを握るのは我らが武田。「楽しんでますか横アリ!」との既視感。なんと彼のMCは昨年とほぼ変わらず。「最後までよろしくー!」とのほぼ毎日聞いている叫びに苦笑してしまった。一息つき落ち着いた武田は「このステージに立って11年になります」と淡々と語る。「二重人格か!」との野田の苦笑に笑いが起こる。野田は「いつかみんなで横アリでワンマンやろうねって話してた。横浜はホームで横アリは聖地。」と2007年のセプテンバーまだじゃんについて語る。続けて「今はいないけど智史と初めてあったのも横アリ。高校生の時に大会に出ていて...。」とYOKOHAMA HIGHSCHOOL MUSIC FESTAについて語る。そのライブ来てた人!との声に予想よりもはるかに多い手が上がるを「もうほんと横浜は嘘つきばっかり。生まれてないでしょ?」と軽口を叩く。一体野田はオーディエンスをいくつだと思っているのか。ついでに今日誕生日の人と15歳の人、関東以外から来た人を聞く。続いてマイクは桑原へ。くわバーガーについて話し、1時間ほど彼がバイトリーダーをしていた間に50代だけど大丈夫?と声をかけられたことを話す。「自分で言うのもなんですが、世代を超えてに愛されてると思います!」と微笑む。グダグダのMCを野田が断ち切り、続いての曲へ。後半戦の始まりは「おしゃかしゃま」本公演は野田が花道に出てくる回数が圧倒的に多い。その度にオーディエンスのボルテージは上がる。しかし、本曲での歓声は段違い。なんと花道に野田・桑原・武田の3人が揃った。サビの"言うんだ""いいんだ"では会場全体が吠え、"ふたつ合わさって無茶苦茶にしよう""ふたつ合わさって有耶無耶にしよう"では会場全体が跳ねる。続いてラップに使われるブーンという重低音が響く(ごめんなさいなんて言うのか分かりません)「カタルシスト」低音とともに野田の背後に火の玉が舞う。静かな沸騰のイメージにぴったりな演出だ。本公演で初めて生で聴くオーディエンスが多いだろうに、サビのクラップは自然と始まり、一体感を見せる。曲が終わると、野田はピアノの前へ。不安を煽るようなピアノサウンドに戸惑いつつ耳を傾けていると始まる「洗脳」なるほど、これのアレンジだったのか。白地に黒のマーブルが動き回る映像をバックに桑原のギターが歪む。山口のドラムのサンプリングを使用していたというドラムは本日はツイン。野田は階段に座りながら歌う。随分とメロディーのアレンジが目立つ、またアウトロが長い、なかなかふっと消えない。チロチロと音をくねらす桑原が花道に立つ。オーディエンスが桑原に集中しきるとふっと音が消えた。
曲が終わると後ろから大きな歓声がする。なんと野田はバックステージに移動していた。ピアノの前に座った野田が「どう?後ろの方?ちゃんと届いてる?上の方も届いてる?」と確認し、2言ほど話したあと始まったのは「週刊少年ジャンプ」残念ながら前方からはそのシルエットしか見えず...。本日4度目のMCの話題は「HINOMARU」について。「あんなふうにも利用されやすいものなんだと思った。」と言葉少なに野田は語る。「俺はアメリカの小学校に通って、ある日急に連れていかれて、毎朝さ、I pledge allegiance to the Flag of the United States of America,って言うんだよ。俺はそれで英語を覚えた。それで日本に帰ってきて小学校行ったらそんなものどこにもなくて。それってなんだかいいなぁって思ったんだ。」「俺にとって母国は一つだけだから。それについての気持ちをまっすぐ歌おうと思った。俺の考え方はさ、そんなにどっちって決まってないから。」と自分の思考はあくまでリベラルであることを伝える。そうして始まった「HINOMARU」彼はまっすぐ前を見て、優しい目で歌った。武田はステージ歌詞をくちずさむ。圧巻だったのは刄田のドラム。心音のようなバスドラムが胸に迫る。「歌って」との野田の声にオーディエンスのコーラスが入る。歓声とともに曲は終わった。そして野田は、ステージに帰る。Aブロックの右側とBブロックの左側、その後方ブロックのみが彼とハイタッチできたよう。続けて本日5度目のMCが野田の口から。「残すところ3曲になりました」との声にブーイングが飛ぶ。すかさず、「はい。あと一曲になりました」との返答。会場から溢れるやだーとの声に微笑む野田。「大丈夫?まだまだ行ける?じゃあ一緒に歌ってください」との声で始まったのは「トレモロ」"満天の"から横アリ17000人が合唱する。青く光るステージポツポツと星を模したライトが光る。静かな興奮が収まらぬまま、武田が腕を高くあげ、クラッブを始める。続く曲は「いいんですか」スクリーンには会場が笑顔の会場が映される。ここでも「歌って」という野田に答え、レスポンス以外にもワンコーラス。恒例の「愛してるよ」に会場が沸く。野田のギターの音の余韻に浸っていると、リズミカルなドラムサウンドが始まる。お馴染みの水色のギターを持った野田とオーディエンスの「へーホー」のレスポンス。そう始まる曲はもちろん「君と羊と青」"はい はい"との煽りが心地よい。もう一回は本公演では演奏されることがなかっさ残念...。
終演の拍手はたちまちもしもコールに。開演前から呼びかけられていた無点灯は実行されず、アリーナはライトで覆われた。禁止されてないからいいのではとの指摘もあるが、筆者は真っ暗になった会場で歌われるもしもを愛しているため、少しショックだった。ともあれ3分ほど経った後、メンバーが再びステージへ。桑原は青のユニフォームTシャツ、武田は白のユニフォームTシャツを着ていた。オーディエンスを見た野田は「ちょっと待って、決めてきた曲があるんだけど変えるかも」と言い、ピアノ曲ほかの曲かどっちがいい?との問いにどっちもー!と声が上がるか。「欲張り〜じゃあどっちもやりません」と笑う野田。欲張りと言ったり、嘘つきと言ったり今夜の彼はかなりリラックスした印象だ。「じゃあ以上って曲やる?」とコードを抑え、ワンストローク。会場がわくため、そのやりとりを数度してから野田は「こっちの曲の方が喜んでもらえると思って、俺らからみんなへプレゼントとして受け取ってください」と曲紹介をする。野田のギター1本から始まったのは「セプテンバーさん」予想外の曲に会場からは悲鳴が上がる。繊細な手つきに神妙な顔つきの桑原と衣装をひらひらさせながらクルクルまわる武田。恒例の"Oh セプテンバー"のレスポンスも綺麗に決まり桑原のギターのボリュームを野田がゆっくりと下げていく。沸く会場に野田は「歌う曲と騒ぐ曲どっちがいい?」と問う。オーディエンスの選択は騒ぐ曲。「会心の一撃」が始まる。武田と桑原は駆け回り、中央で交差する。野田の歌詞の間違えが目立ったが、それだけ興奮してくれたのだろう。"世界 世界"に合わせて「跳べ!」との野田の指示に会場が跳ねる。定番の「幸せになれよ!」に会場が吠える。野田・桑原・武田がジャンプして曲を占める。メンバーが礼をする。武田のお辞儀はいつ見ても綺麗だ。「また会おうね」と野田が去り、本公演は終わった。
本ツアーは「アルバムツアーではないから普段やらない曲を」をコンセプトにしたライブだ。アンコールの「セプテンバーさん」が今ツアーを至高のものにしたのは間違いない。
ただ、このツアーで言及するべきは「やどかり」と「前前前世」が演奏されなかったことではなかろうか。昨年のツアーでアルバム未収録の曲が演奏されたのは1曲のみで「ハイパーベンチレイション」だった。本ツアーでは「洗脳」と「やどかり」がそれにあたる。長年RADWIMPSを愛してきた人ならわかるだろう。ファンアートで著名なとぅじ氏が日頃主張しているように、「やどかり」は山口智史(Dr)の曲だ。公式で作詞が作曲がと言われている訳では無い。ツアー『絶体延命』でドラムセットを背負い、マーチングのようにチンドン屋のようにおどけて行進してみせた彼の姿が忘れられないのだ。
RADWIMPSが3人になって初めてのワンマンライブ「RADWIMPSのはじまりはじまり」のアンコール曲は「お風呂あがりの」だった。この曲はドラムを使わないアコースティック仕様だ。その曲を演奏する彼らを見て、彼らは智史を待っていると思った。そのように「やどかり」は3人になってから1度も歌われていない。
『RADWIMPSのHESONOO』をご覧になっただろうか?「つながりを断ち切って人は生まれてくるんだよ」をキャッチコピーにしたこのドキュメンタリーのテーマは「優しい嘘」だ。10周年の期間中つき続けた彼らの優しい嘘は山口智史の無期限休養だ。そう、演奏できない彼は休養よりも脱退に近い。文字にすると口にすると実現しそうでずっと言えなかった。あえて言おう。彼が帰ってくる可能性は限りなく低い。
上記の2点を知った上で聴く「やどかり」は永久欠番を埋められたような悲しさだった。智史は戻ってこないと突きつけられた気がした。しかし、それを悲観してはならない。筆者が行った横浜アリーナの1日目に智史が来ていたという噂がある。二人の子供を連れて笑っていたと。智史が見ている公演で「やどかり」を演奏する。これは3人が前を向いたことの象徴だ。彼らは言っていた「智史がいないことを前向きに捉えたい」と。ドラムスがいないから、打ち込みを試すのだと。筆者はそれを信じられなかった。追悼のように(不快に思う方がいたら申し訳ない)歌われる「お風呂あがりの」があったからだ。しかし、本公演で「やどかり」は演奏された。彼らは進まなければならない。智史がいない間も「RADWIMPS」を保つために。その名を廃れさせてはいけない。いつまでもトップを走り続けられるように。それを彼らはついに実行した。「俺らなら大丈夫」と聞こえるような気がしたのだ。
また、本公演では今や彼らの代表曲となった「前前前世」が歌われなかった。「『君の名は。』の曲は1曲も演奏しないつもりだった」と語る彼らが選んだ曲は「スパークル」だった。新規のファンはきっと聴きたかっただろう「前前前世」が演奏されなかったのはなぜだろう。それはRADWIMPSが『君の名は。』の1発あたりではないことを示すためだ。『君の名は。』フィーバーは終わった。このまま「前前前世」を歌い続ければ彼らは『君の名は。』の遺物になってしまう。彼らはそれを避けた。現在のRADWIMPSとそれ以前のRADWIMPSをフルで発揮することで。
繰り返しになるが、彼らは今ツアーで「やどかり」を演奏し、「前前前世」を演奏するのをやめた。それは彼らが前を向き、なおかつ進むためだ。彼らは留まることをしない。それは同時に変化していくことを表す。彼らは変わり続ける。私たちはそれを見届けなければ、一生お前についてくと言わされたのだから。
セットリスト
- AADAAKOODAA
- One man live
- ます。
- MC
- ふたりごと
- 遠恋
- 俺色スカイ
- やどかり
- 揶揄
- MC
- 秋祭り
- スパークル
- MC
- おしゃかしゃま
- カタルシスト
- 洗脳
- MC
- HINOMARU
- MC
- トレモロ
- いいんですか
- 君と羊と青
En.
- セプテンバーさん
- 会心の一撃