Ni_bansenji

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語るタイプのオタクがおくるちゃんぽん感想文

ド・ド・ドーンのすべてを語る ~FLYERから見る夢の競演~

 

去る2018年3月18日さいたまスーパーアリーナで「エレファントカシマシ 30th ANNIVERSARY TOUR "THE FIGHTING MAN" SPECIAL ド・ド・ドーンと集結‼ ~夢の競演~」が行われた。

全国47都道府県を回った30th ANNIVERSARY TOUR "THE FIGHTING MAN”の本当の終結であり一夜限りの夢の狂宴であった先日を筆者は未だ忘れられない。

 

さて、筆者はスピッツベルゲンに入会するほどのスピクラである。ライブレポートに入る前に筆者がスピッツベルゲンに入るまでの経緯を説明させてもらいたい。お前のプライベートなどどうでもいいという方はぜひとも続く数行を読み飛ばしていただきたい。

 

思い返せば三年前。今イベントに決して劣らない対バン「RADWIMPS胎盤」が行われた。筆者は当時高校二年生。ゲストアクトにスピッツの名前を見つけ、教室で歓喜の叫びをあげたことを鮮明に覚えている。このライブに行けなければ一生後悔するとの予言を残し、筆者は横浜アリーナの2F立見席に一口だけ応募した。今考えればとんでもない暴挙だが、当時は一番人気のない席を第一希望にして一口応募すれば落選しないという根拠のない自信に満ちていた。結果、筆者は当選した。

 順番が前後するが筆者の母はファン歴20年を超える生粋のスピクラである。私はそんな母の下に生まれた。子守歌は「ひよこ」車に乗れば「花泥棒」を熱唱し、物心つく頃には「君のおっぱいは世界一」と歌う、そんな幼少期を過ごした。スピッツは最も身近なバンドであった。

しかしながら、私の最も敬愛するバンドはRADWIMPSである。スピッツは当時の私には前座に過ぎなかった。

ライブ当日。「運命の人」からはじまったセットリストはスピッツの本気がにじみ出ていた。初めて目の前で演奏される「けもの道」を聴いて涙が止まらなかった。極めつけは野田洋次郎RADWIMPS Vo)しか歌えないと思っていた高低差の激しい「叫べ」のカバー。胸が震えた。筆者の初めてのRADWIMPSのライブは本気のスピッツに完全に食われてしまったのだ。

その後、筆者のスピッツ愛は加速し、現在に至る。

 

それでは本題に入る。

本公演はさいたまスーパーアリーナにて一公演のみ行われた。出演者はスピッツMr.Childrenエレファントカシマシ。フロントマンの平均年齢は49歳。呼びたくはないが、だれもが認めるご長寿バンド・及び大御所バンドのまさかの対バン。発表されたときはあまりにも豪華すぎるメンツに「今年で世界が終わるのか」と本気で心配した。推定キャパ数は22000人。当日は会場限定グッズの販売やTHE FIGHITING MAN MUSEUMが開設されたことにより、それよりも多くの人が会場を訪れた。芸人のアキラ100%もグッズを買うためだけに訪れたことを公式ツイッターで報告している。会場限定グッズは二時間ほどで完売。今では二倍の価格で転売されている(非常に悔しい)。

 

グッズ販売は11時から、開演は17時からにつき、会場は異例の15時半。筆者は入場してすぐ、スタンド花に描かれた豪華な名前に驚いた。ずらりと並んだ花には「MUSIC STATION」や昨年紅白出場を果たしたエレカシらしく「うたこん」の文字。さらには、昨日発売されたトリビュート『エレファントカシマシ カヴァーアルバム3 ~A TRIBUTE TO Elephant Kashimashi~』から阿部真央東京スカパラダイスオーケストラ斉藤和義、音楽プロデューサーの亀田誠治、YANAGIMAN、『宮本から君へ』の新井英樹の名前まで。エレカシの偉大さに圧倒された。

 

開演時間ギリギリまで埋まらなかった席も無事空席が目立たなくなり、ついに時計は約束の時間を指す。年齢順で行われるという私の予想は見事に外れ、流れ始めたのは「SUGINAMI MELODY」。いうまでもなくトップバッターはスピッツ

手拍子のため掲げられた観客の手と照明が反射して、会場が淡いさくら色に染まった瞬間「春の歌」が流れ始めた。余韻が冷めきらぬうちに「恋する凡人」「8823」へと曲は移っていく。「8823」では田村(Ba)が演奏中にベースを床に置く奇行に出る。崎山(Dr)はマイクがないこともかまわずサビを歌う。三曲で会場は最高潮に。息もつかずに軽快なクージーのキーボードが流れる。なんと始まったのはアルバム『インディゴ地平線』から「初恋クレイジー」会場のどよめきはスピクラのうれしい悲鳴か、もしくは他バンドファンの戸惑いか。崎山のシンバルの音が残る中、ステージが明るくなり、草野が話し始める。やや緊張気味の草野はあいさつに続き「エレファントカシマシは28年前くらい前からのファンで、昔は正座して聴いていました。今は立って聴いています。」と主催エレカシへの愛を語る。

MC後は「チェリー」「愛のことば」「スターゲイザー」と怒涛のタイアップ・ヒット曲攻め。この日のスターゲイザーは熱気に押され走り気味であった。

そして本日二度目のMCからエレファントカシマシの4枚目シングル「浮雲男」のカバーへ。力の抜けた”ああ ぷかり”の歌いだしによってエレファントカシマシサウンドスピッツサウンドへと再構築されていく。 草野の張らずとも伸びていく高音が目立ち非常に気持ちよかった。歓声とともにステージは暗転し、絞られたライトが草野を照らす。アコースティックギターを持った草野が朗々と歌いだし「みなと」へ。”消えそうな綿雲の意味を考える”という歌詞でこのセトリの順がわかった気がした。灯台のような光が会場を照らす中、草野はハーモニカと口笛を器用に操った。

ここでメンバー紹介が入り、三度目のMCへ。「久しぶりのトップバッターに緊張しています。アマチュアの頃、都内のライブハウスを思い出します。」と草野。フェスや対バンではベテランとなった自分たちは年齢とともにどんどん後ろの方へ。との話に続き、「楽屋のお菓子もフェスなどではケーキがおいてあるけど、今日はあんこものが多い。」と田村の言葉に会場が沸く。続けて自分たちは老年の青春を生きているとの草野が「ミスチルエレカシスピッツとご長寿バンドを三つも見れた皆さんは長生きできます。」とMCを締め、「涙がキラリ☆」へ。珍しくついた手フリが情緒を溢れ出させていた。続いてグリーンの点滅するライトに合わせ、激しいバンドサウンド「さわって・変わって」この曲でも暴れる田村は低音の”yeah yeah”で観客をあおる。興奮冷めやらぬ中、ライトは赤身の強いピンクへ。そうこれは筆者が三年前、号泣した「スパイダー」の色。一糸乱れぬ観客のワイパーに強い愛を感じた。そして三輪(Gt)の力強いギターから最後の曲「トンガリ’95」へ。

スピッツの演奏曲数、驚異の13曲。フルパワーの50歳たちは惜しげもなくヒット曲を連発し去っていった。対バン用のロックなスピッツ、あなたがたは誰よりも尖っていた。

 

休息の後、2番手を務めるのはMr.Children。フロントマン桜井(Vo)をオーロラビジョンが大きく映し出す。「みんなついてきて!」とアイドルさながらに叫ぶ桜井。

始まったのは「Everything(It's you)」恐縮だが筆者はMr.Childrenエレファントカシマシも実際に見るのは当日がはじめて。テレビと同じように顔をクシャッとさせる桜井を見て「実在した!」と思った。続いて「HANABI」のイントロが流れると会場からは大歓声。場内のクラッピングに鈴木(Dr)も嬉しそうに大口を開けて笑う。この曲で何より驚いたのはMr.Childrenのファンでない方も多いだろうに"もう1回 もう1回"のフレーズを大合唱でき、さらには1テンポも遅れることなく、全員が人差し指を掲げられたこと。Mr.Childrenの偉大さを改めて感じた。

余韻を残したまま、ステージは明るくなりMC。「最初で最後だと思います!楽しんでいってください!」との桜井はどことなく嬉しそうで、当日が待ち遠しかった様子。これまで幾度なく聴いてきたイントロから「innocent world」へ。

曲が終わると桜井はエレファントカシマシとの出会いを語り始めた。Mr.Childrenエレファントカシマシと同じオーディションに応募し落ちたこと。落ちた理由は個性が足りなかったこと。当時のバンドは派手なものが多かったが、2年前に優勝したエレファントカシマシは地味だったこと。明治大学の学園祭に偵察に行き、派手ではないがかっこいいエレファントカシマシのファンになったこと。そして「熱心なエレカシファンはトイレに行く時間」と告げ、関係者の方にも「なんでそんな地味な曲を」と言わせた「太陽ギラギラ」をカバー。Mr.Childrenの優しく柔らかいイメージを払拭するようなエキセントリックで衝撃的な演奏。間奏でステップをふむ桜井もさながら、田原(Gt)と中川(Ba)の真剣な表情もたまらなかった。筆者は「ニシエヒガシエ」が大好きなので、本カバーも大好物。映像化を激しく希望する。

続いて「and I love you」朗々と歌う桜井ののびやかなハイトーンが会場を包む。アリーナからスタンドまで伸びる細いライトが印象的だった。さらにMr.Childrenはドラマで話題となった最新曲「here comes my love」を披露。競演と言ってもMr.Childrenは一応ゲスト扱い。それにもかかわらず最新曲を披露し、さらに観客がそれに瞬時に反応できるとは、何度も繰り返すがMr.Childrenはやはり偉大なバンドである。カバー後の3曲目も穏やかな曲調。こちらもタイアップで話題となった「himawari」この3曲の流れが実に流暢だった。筆者は『君の膵臓をたべたい』を映画館で観ていたため、イントロから号泣していたが、鈴木を見て泣き止む。どんな曲調でも大口を開けて笑っているのだと当日初めて知った。彼は本当に楽しそうに演奏していた。

最後のMCが入り、今年のモチベーションはほとんど今日だったと語る桜井。「調子に乗らせてください」と告げ、エレファントカシマシの「やさしさ」をギター1本でワンコーラス。続けて最後の曲「名もなき詩」会場を揺らすクラップとともに歌う桜井は1番のサビ前で「歌って欲しいんだけど」と煽りをいれ"あるがままの心で"から大合唱。曲が終わっても湧き続ける会場に桜井は「エレカシ最高!」との言葉を残し去っていった。

この日のMr.Childrenの演奏曲数は9曲。3バンドの中で最も少なかったものの、桜井がステップやステージを駆け抜け会場を沸かすパワフルな曲から、しっとりと歌い上げるバラードまで濃厚なステージだった。

 

しばしの休憩を挟み、最後のステージ。エレファントカシマシ

SAなしでいつも通りの黒いジャケットに白シャツ姿のメンバーが登場。マイクを持った宮本(Vo)が「よろしくお願いします」と呟き、無造作に「RAINBOW」を歌い出す。地味な登場と裏腹に会場の空気は一新。今までの2バンドはあくまでも前座であり、主役は彼らだということを思い知らされる。呆然とする観客を置き去りに「奴隷天国」へ。先程までhimawariを聴いて感涙していた観客はどこへ、力強い"死ねぇ"に握りこぶしを突き上げる。"Ah 生まれた時からそう なにをしてきた"の"なにを"

に合わせて指を指し、"おめぇだよ"で前列の数名を指す宮本に鳥肌が止まらない。続けて「悲しみの果て」反骨を露わにし、がなり立てるような演奏とは一転。さすがは7色の声を持つ男。名曲の生演奏に観客もうっとりする。続いての曲は「星の砂」破天荒で反逆的、支離滅裂で暴力的なエレカシが再登場。サビで観客の手が一斉にあがったのにも驚いた。

ここで本日初めてのMCが入る。軽い挨拶と2バンドへの感謝を述べた宮本は次の曲に向けて観客を煽る。「いい顔してるぜエブリバディ。かっこいぜエブリバディ。可愛いぜエブリバディ。」「よく見えないけど。」おどける宮本のらしさが光る。

続けて「風に吹かれて」「笑顔の未来へ」男くさく情熱に満ちたエレファントカシマシを魅せた。「代表曲を」と述べ始まったのは「桜の花、舞い上がる道」この日紙吹雪は振らなかった。筆者はこの曲はバンドメンバーのみで演出なしで演奏されるのが1番くると実感。

そして本日2度目のMC。宮本はスピッツMr.Childrenとの出会いを語る。Mr.Childrenとの出会いはAAA(Act Against a AIDS)、スピッツとの出会いはROCK IN JAPAN FESTIVAL。どちらの演奏にも胸を打たれたそうで感涙したことを語っていた。ちなみにその場で聴いた曲はMr.Childrenは「Innocent World」スピッツは「涙がキラリ☆」だそう。本日もスピッツの「涙がキラリ☆」を裏で聴き、自分が好きだからやってくれたのではないかとの笑顔。また2バンドがカバーした「浮雲男」「太陽ギラギラ」にも触れ「エレカシも練習してくればよかった。練習すれば出来るんですよ。でも、ほら前日までツアーがあったから。」と何とも破天荒なセリフ。個人的にはエレカシカバーの「俺のすべて」が聴きたかった。

MC後ギター一本て語りかけるように歌い出したのは「風と共に」本日一番優しいサウンドにうっとりしていると次の曲は「ガストロンジャー」あまりにも落差が激しい。宮本は「お尻出してブー」とまるで悪ガキのように観客を煽る。挑発に乗る観客も拳を突き上げ、会場は最高潮に。続けて「今宵の月のように」を演奏し、6月に発売予定の新曲「Easy Go」を披露。この曲で宮本は演奏途中に自身のギターを投げ捨てたと思いきや、演奏中の石森(Gt)のギターを取り上げ演奏。石森のギターがなくなるというハプニングが発生。今公演ではこの他に宮本が石森をヘッドロックし連れ去るシーンも見られた。これが定番とは知らず筆者はだいぶ肝を冷やした。

さて、「Easy Go」はテンポが速く宮本に言わせれば「息継ぎ問題」が残るそうだが、ライブ終盤にも関わらず気迫の伝わる演奏だった。

そして最後のMC。「シングルにしたいと希望したがシングルにならなかった曲」との紹介で始まったのは「FLYER」ツアー内で演奏されなかった曲にファンから歓喜の声が上がる。

演奏が終わると宮本はマイクを手に取りまたもや「お尻出してブー」と観客を挑発。持っていたマイクを投げ、ライブ前半で既にはだけていたシャツのボタンを外し去っていった。最初から最後までなんてロックな公演であったか。

 

エレファントカシマシを送った拍手がそのままアンコールとなり、エレファントカシマシが登壇。せっかくだからと宮本がスピッツMr.Childrenを呼び、3バンドがステージ上に集結。フロントマン3人が宮本さん・草野さん・桜井さんと呼び合う姿は非常に和やかであり、微笑ましかった。

エレファントカシマシスピッツが演奏、Mr.Childrenがダンス(笑)で参加したのは「ファイティングマン」"黒いバラとりはらい"1番を高らかにハイトーンで歌うのはMr.Children桜井。マイクを持ち歌ったまま客席寄りに走る。その爽やかで若々しいこと。"oh ファイティングマン yeah"から宮本が入る。その間Mr.Childrenメンバーはタンバリンを担当。中川が照れくさそうにしているのがなんとも言えぬ可愛さ。続けて2番を歌うのはスピッツ草野"お前の力必要さ 俺を俺を力付けろよ"と珍しく声を張る。草野は緊張しているのか気を使っているのか終始小さくなっていた。サビはフロントマン3人が肩を組みユニゾン。3番は宮本が歌う。本家はやはり力強さが違った。再びサビを3人でユニゾンし、続いて"Baby ファイティングマン"をリレーで歌う。最初は桜井、次に草野、最後は宮本そしてユニゾンで締める。肩を組みジャンプするフロントマン3人と踊り狂う鈴木、暴れる田村が印象的だった。

「ファイティングマン」2017年3月20日大阪城ホールで開催された「デビュー30周年記念コンサート "さらにドーンと行くぜ!"」はこの曲から始まった。30周年を記念する1年がこの曲で始まり、この曲で終わる。

スピッツMr.Childrenのメンバーが去り、残された宮本が「エブリバディいい顔してるぜ!ドーンと行け!」と公演の名前をなぞり競演は終了した。

 

さて、これだけ中身のない長文を書き、私が言いたいことは「なぜ宮本は『FLYER』を本編最後の曲としたのか」ということだ。

最初に「FLYER」の歌詞を見ていただきたい。

オレは右へ オマエは左へ

素晴らしい思い感じたら落ち合おう

 

オレは右から オマエは左から

そうしていつの日か落ち合おう

本公演で一堂に会した3バンドはキャリアは変わらないものの特色はかなり異なる。

オルタナティブロックのスピッツ。ポップ・ロックとフォークロックの狭間に独自のジャンルを形成するMr.Children。そして古き良き正統派ロックのエレファントカシマシ

彼らに共通するのはいい音楽を届けたいという思いだけだ。(宮本の発言より)

言うまでもなく「FLYER」は三者三様の道を歩む3バンドへの応援歌である。そして再会を誓う歌でもある。

そうこれは、ライブの締めを「お尻出してブー」とするような照れ屋宮本のスピッツMr.Childrenへの愛と最大のリスペクトだ。

 

それぞれの道を高らかな足音をたて歩む3バンドが再び落ち合い、再会の涙がキラリとするその時を願ってこのライブレポを締めさせていただく。(らす)